モンスター井上
【 ボクシング編 】
井上尚弥 対 ルイス・ネリ naoya inoue VS Luis Nery
「これはもう勝てないでしょう」井上尚弥、1回に“衝撃のダウン”も6回KO勝利
◆パンチの振りが大きい…力んでいる
確かに井上尚も人の子だった。これまで「モンスター」の異名通り、リング上で一切の隙をみせず、冷静に闘い、圧倒的な強さを誇ってきた。だが、入場時から明らかに気合が入りすぎている。東京ドームのチケットは完売し、超満員となる4万3000人が駆けつけた。観客で埋め尽くされた景色がよほどうれしく、高揚していたのだろう。
ゴングが鳴る。井上尚が放つパンチの振りが大きい。いつもより力んでいる。試合のピークがいきなりやってきた。開始1分40秒。接近戦で井上が左アッパーから右フックを放とうとした瞬間、ネリが顔面への左フック。被弾した井上尚が倒れた。プロ・アマを通じて初のダウンだ。
「(連勝が)止まっちゃう。こういう最後か…」
セコンドの大橋秀行会長の頭に一瞬、敗戦がよぎった。まだ体が温まっていない試合早々にパンチを食らい、リングに沈んでいった数々のボクサーを見てきたからだ。
「1ラウンドのパンチは思っている以上に効くんだよ。タイミングで倒されたのではなく、ネリは左をフルスイングしていた。尚弥は相当ダメージがあったと思う」
大橋会長だけではない。リングサイドで見ていた井上尚の弟・拓真も目を疑った。
「心臓が止まるんじゃないか、というくらい焦った」
◆まさか…東京ドーム4万人から悲鳴
井上尚がリング上を転がった。会場は悲鳴に包まれる。誰もが目の前の光景を信じられない。ドームにいる4万人超の中で唯一冷静だったのが井上尚だった。
非常事態に驚いたような表情を見せながら、キャンバスに片膝をつき、レフェリーが「カウント8」を数えるまでゆっくり休んだ。
生涯初のダウンでパニックになってもおかしくない。焦ってすぐに立とうとして、足元がふらついたところをレフェリーに止められる選手も多い。
大橋会長が感心した口調で言った。
「やっぱりさ、倒されたら人はすぐに立とうとするんだよ。でも尚弥は(カウント)ギリギリまで休んで、ベテランみたいだったね」
井上尚はその場面を振り返って、言った。
「なに、このパンチ…ヤバいな」
井上尚弥のワンツーは「硬い塊をぶつけられる感覚」
「まるでディナー帰りのような顔」
「怪物と最も拳を交えた男」の目に、スーパーバンタム級2戦目のモンスターはどう映ったのか。12月26日、井上尚弥がマーロン・タパレスを圧倒し、10回KO勝利を収めた。井上のプロテストの相手役など長らくスパーリングで拳を交えてきたのが、元日本2階級制覇王者の黒田雅之だ。タパレス戦のキーになった“3つのポイント”を中心に解説してもらった。《NumberWebインタビュー全2回/前編から続く》